「やりますか!!」

誘う方も誘う方だが、今思えば、僕も随分と簡単に応えたものだ。はっきり云って、この時点では慶太さんをほぼ知らなかったというのに。名前、チャレンジ富士五湖に参加したこと、同じジムの会員であること、知っているのはそれだけだった。「知らないおじさんについて行っちゃ駄目」な世の中で、「ほぼ知らない人と1日かけて100キロ一緒に走ること」に躊躇いを感じないのは、ランナーの不思議な連帯感か、それともただの阿呆か。いずれにせよ、応えてしまったのだから仕方がない。ジムで顔を合わせる度に、少しずつお互いの希望を摺り合わせて行った。(といっても、殆どが僕のわがままだったのだけれど...)

何より最大のわがままは「大晦日にやりたい」ということだった。こたつに入ってみかんを食べながら紅白歌合戦を見る風習を棄てろというのだから横暴極まりない。でも、ただブログにキャッチーなフレーズで書きたいというだけの理由で駄駄を捏ねる僕に、慶太さんは合わせてくれた。ありがたや、ありがたや。そして、その後も、慶太さんは僕の繰り出すわがままを丁寧、且つ、迅速に処理し、気がつけば綺麗にまとめあげられた企画書ができていた。



その名も「勝手にウルトラマラソン」。ゴールは開業したての東京スカイツリー、スタートは宇都宮タワーに設定した。その距離およそ100キロ。完走後にはスカイツリーに上り、日本一高い建造物でガッツポーズをしてやろうという算段だ。

慶太さんの企画書にはコースや設定ペース、各ポイントの通過時間、休憩ポイントなどが細かく記されていて、まるで大会のパンフレットのようだった。大会に参加するランナーのように、僕はただ宿泊の予約と打ち上げをするレストランの予約、そして、スカイツリーのチケットを手配するくらいで良かった。そして、この「余裕」がふたつの試みを思いつく時間をくれた。

ひとつは「生中継」

この企画が形になる前から、一緒に大会に出た何人かのラン仲間には「大晦日に100キロ走ること」は伝えていた。そして、その中には応援に駆けつけてくれる、あるいは、一緒に走ってくれるという人までいた。ありがたや、ありがたや。富士五湖でもたくさんの応援に勇気づけられたし、長い時間を頑張るためには応援があるととてもありがたい。しかし、この馬鹿に付き合ってくれる人に位置を伝える術が見当たらない。マラソン大会で何度も顔を合わせているような仲間でも、ブログやSNSを経由して交流しているので電話番号など知らないのだ。100キロという途方もない距離を走るのに、その途中途中で立ち止まって携帯を操作しているのも煩わしい。ならば、位置を常に配信し続ければいいのではないか?そんな単純な発想からUstreamで中継することにした。



そして、もうひとつは「ノボリ」

100キロ走ると云っても、端から見ればただのジョガーだ。応援に駆けつけてくれる人の中には数回しかあったことのない人もいる。せっかく来てくれても気付かれないのでは意味がない。ならば何か目印が必要だ。バラの花を胸に差してもいいのだけれど、あまりにも恥ずかしすぎるし遠くからでも分かるものの方が好ましい。そう云えば、マラソン大会でノボリを担いで走っている人がいた。向けられる声援も仮装ランナーに対してのそれと変わらないくらい多い。仲間との合流に加え、もしかしたら見知らぬ人まで応援してくれるかもしれない。ありがたや、ありがたや。調べてみれば適度なサイズ、手頃な価格のものもあった。興奮に身を任せ、一気にデザインして、気がついたら発注していた。

バックパックに園芸用の支柱を固定してノボリを立てた



こうして準備は整った。富士五湖を待っていた半年間とは違い、勝手にウルトラマラソンは準備に追われながらあっという間にその日を迎えた。そして、笑いあり涙ありの100キロ男ふたり旅が始まったのだった。