声が出なかった。
呆然と立ち尽くした。
無情の文字が僕等をどん底に突き落とした。

「年末年始休業」



辿り着いた道の駅ごかは営業していなかった。

道の駅に休みなんかあっていいのか。往来の激しい年末年始に何故店を開けない。僕等は走ってここまで来たんだ。59キロも走ったんだぞ、なぜそれを労ってくれないのだ。温かなそばで疲れを癒す必要があるんだ。お願いだ、店を開けてくれ。開けてくれないなら、もう道の駅なんか使ってやるもんか。

ひとしきり憎悪に燃えるふたりの心ではあったが、体の熱は奪われて行く。すでにガス欠寸前だ。程なくして自分たちの計画の甘さに白旗を上げざるを得なくなった。とぼとぼと自販機に近寄り、寒さに震えた時の定番、ココアを買った。



はっきり云って、痛恨の補給ミスだった。フルマラソンに「35キロの壁」という言葉があるのはそこがエネルギーの枯渇ポイントだからだ。補給をしなければ体に蓄えられたエネルギーはなくなり、活動することができなくなる。ウルトラマラソンならば尚のこと。タンクが空っぽにならないように絶えず燃料を入れてやらなければいけない。

それだというのに、目を擦って何度見ても目の前の店は閉まっている。手持ちの食料もない。結局、残された選択肢は一つしかなかった。前進あるのみ。そして、一刻も早く新たな休憩ポイントを探し出し、何でもいいから食べること。ふたりは重い腰を上げて力なく走り出した。

体調不良の慶太さんはもとより、エネルギー切れで僕も限界が近かった。当然ペースは上がらない。砂漠でオアシスを探す痩せ細った旅人のように朦朧としながら頼りない足取りで進んだ。

5キロを過ぎた頃、遠くにファミリーマートの看板が見えたような気がした。しかし、それはただの願望だった。

ようやくひとつ自販機を見つけ、縋るようにしてまたココアを買った。どうにか走り出す。デジタルカメラを自販機の脇に置き忘れたことに気付き、少し逆戻りする。何なのだ、この卑劣な世界は。きっと、何かの法律が施行されて、コンビニなんてこの世界にはなくなってしまったのかもしれない。



もう5キロを過ぎた頃、ローソンの看板が見えた。しかし、それは愚か者の幻覚だった。

実に1時間以上走ったというのに、コンビニひとつ、ファースフード店のひとつもありはしなかった。一体、ここは日本なのだろうか。そんな気すらした。走っていながら、体が熱を発していない。もしかしたら、走りながら絶命するのでないか。胸の前には生中継のカメラをつけているというのに、気の利いたトークは愚か、もはや一言も喋ることができない。何かの法律が施行されて、コンビニ同様に僕の声もこの世から姿を消してしまったのだ。

結局、コンビニがあったのは道の駅から15キロの地点だった。枯渇した体から実に1000キロカロリーをどうにか捻り出して辿り着いたところに、セブンイレブンが確かに存在した。僕達は貪るように温かな煮ぼうとうを食べた。



つゆまで全て飲み干した。体に少しずつ熱が帰って来るのを感じる。ゴールしたわけでもないのに涙が出て来た。慶太さんもどうやら少し落ち着いた様子だった。コンビニのお客さんからも声援をもらった。そうだった。すっかり忘れていたけれど、スカイツリーまで走るんだった。ようやく思考も戻って来た。



ゴールのスカイツリーまではもう25キロ程のはずだ。展望台への入場の為に夜8時半までには到着しなければいけなかった。ここまで随分と遅れを取ってしまってはいたが、まだどうにか間に合う。

「がんばりましょう」

慶太さんと走る気持ちを確認し合い、僕たちは再び東京スカイツリーを目指して走り始めた。