ひとときの休足を終えたふたりは埼玉県内をひたすら南下し続けた。

空腹が治まった分、残りの距離や時間、カラダの疲労が気になる。すね、ふくらはぎ、腰、肩、全てが痛い。信号で止まるたびにストレッチを繰り返しては、残り距離をカウントダウンしていった。口をついて弱音が出てくる。

それに対して、ここまでペースを上げられなかった慶太さんは調子を取り戻していた。まるで別人のように淡々と必要なペースを刻む。

「煮ぼうとうが効きました。」

けろっとした顔でそんなことを云う。何たる回復力。さっきまでの不調は演技かと思う程だ。ここまでほとんど並走することができなかったというのに、隣に並ぶどころか、むしろ、僕が引っ張ってもらう状況になっていた。



ただ、完走という目標に対しての不安は随分と薄らいでいた。まだ東京には入っていないものの、残り距離はハーフマラソンと同じ21キロ。普段の大会では2時間を超えることまずない。スカイツリー展望台への入場の為には9時までに着かなければいけない。猶予は3時間、ゆっくりのんびりで良かった。あんなに無かったコンビニもここでは1キロ毎にある。ココアで温まりながら歩を進めた。

「草加に入りました」
「そうか、そうか」

そんな掛け合いをする余裕すらあった。どんどん都会になるにつれて信号待ちも多くなり、休憩を取れる時間も増えた。休み休み走って、痛む体もごまかせた。何だか妙に楽しかった。時折、ランナーズハイもやってくる。気持ちがいい...。

しかし...。

しかし...。

本当ならばもう少し早い段階で気がつくべきだった。何故、今楽しくなっているのかを疑うべきだったのだ。

楽なのは信号待ちが多いから。つまり、知らず知らずのうちに休憩時間が拡大していた。余裕と思われたペースも止まらなければこそ。残り10キロになった頃には随分と追いつめられて来た。1キロ7分のペースで進めばいいはずが、1キロ5分のペースが必要になった。しかし、すでに90キロ以上を走っている。太ももはパンパンだ。もう無理かもしれないという考えが浮かぶ。

必死にその気持ちを打ち消した。それでも懸命に走った。ギリギリでも間に合いさえすればいい。最後の力を振り絞れば辿り着けるはずだ。息が上がる。苦しい。でも、走れ。走れ、走れ、走れ。赤信号で止まる。ストレッチをしようとしても、もう膝が曲がらない。

「ロボットだぁ、もう〜」

脚の感覚もなくなってきた。信号が青になる。進め。何だっていい、前に進め。慶太さんは持ち前のタフネスを発揮して、携帯片手にナビゲーションしながら僕を引っ張ってくれる。経験値の違いが目に見える。前半とはまるで正反対だ。ついに弱音を吐きそうになった僕を先導し、力強く前に進む。



千住新橋に辿り着き、スカイツリーが見えた。その小ささに呆然とさせられた。まだこんなに遠いのか。絶望的だった。予定していた距離よりもスカイツリーは遠かったのだ。落胆しながらふたりは歩いた。その時、ランニングウォッチは走行距離が100キロになったことを示した。そして、ついに僕は云ってしまった。

ぷ:「登りたいよ、でも...」
慶:「タクシー、使っちゃおうか。100キロ走ったから...」

慶太さんに云わせてしまった。

ぷ:「100キロ走ったもんね。その代わりリベンジする!」
慶:「これはもうリベンジしないと行けなくなちゃったね...」

千住新橋を渡り切った所で半べそかきながらタクシーを止めた。

こうして僕等の挑戦が終わった。



スカイツリーの展望台からは大晦日の東京が輝いて見えた。
2012年が終わり、2013年が始まろうとしていた。

幸か不幸か、千住新橋の上で2013年の目標は決まっていた。
そう、2013年リベンジの年へと僕等は駆け込もうとしていた。