「大人になると、できることしかしなくなる。そんなのが嫌で...」

野辺山高原100kmウルトラマラソンに参加した際、初めて会った美ジョガーさんを前にそんなことを云っていた。鼻の下を伸ばしながら放った超カッコつけの一言が、今、重く自分にのしかかっていた。ルート計算のサイトでコースを測ってみると、どうやら、名古屋城から皇居までは389キロほどあるらしい。これを年末年始の休日だけでうまく消化できるものだろうか。2日続けてフルマラソンを走った経験はあったけれど、毎日のようにウルトラマラソンを繰り返したことはない。

「できないことをやる気持ちがなくなったら終わり」

あの日の僕はそう言っていたなあ。野辺山の美ジョガーも賛同してくれたなあ。やらないと格好悪いなあ。うーん仕方ない。

冬休みは8日間。名古屋への移動、ゴールしてからの帰宅、回復。いろいろな事情を考慮して5日間を走行にあてることにした。スタートの前日に深夜バスで名古屋入り、翌朝6時にスタートし、1日平均80キロを進み、ビジネスホテルに泊まりながらこの距離を消化していく。疲労も蓄積していくだろう。4日目、5日目の負担を少なくした。各ホテルに荷物を送っておければ良いが、費用がかさんでしまう。大きな荷物は奇数日の宿を宅急便で飛ばし、毎日必要なものはバックパックに入れて走ることにした。

ルートを確認すればするほど、予定を一つ決めれるごとに、

「こんなことできるのだろうか」

という気持ちが強くなった。けれど、それと比例して、与兵衛の思いを知りたいという好奇心が育っていった。周囲の人はちょっと可笑しい人だと思って見ていたに違いない。何しろ、自分でもそう思っていたのだから。

しかし、一度、引き始めた線はゴールまで繋がっていく。日が経つにつれ準備は整っていった。