勘違いされがちだけれど、僕は美容と健康にはそんなに興味がない。

けれど、日々を快適に過ごし、気持ちよく走れる身体でありたいと思う気持ちは強い。ジョギングを始めたころと比べると、体重は10キロ以上落ちた。カラダが軽く、何をするのも億劫だったあの頃とは違う。一度、この軽快感を知ってしまうと、逆戻りしたくないなと思う。ランニングを始めて程なくしてカロリーを気にするようになった。

そして、今年は食べるものも選ぶようになった。

もともと僕は身体が強くはなく、花粉症やアトピー、軽いぜん息も持っていた。フルマラソンの最中、ぜん息で意識が遠退いてしまったこともある。ウルトラマラソンの長距離を走った後も、しばらくのどはなが荒れてわずらわしい日々が続く。どうにかもう少し気持ちよく走れないだろうか?ランニングへの好奇心から、自分に合わない食べ物を除外し始めた。すると、「調味料(アミノ酸等)」と書かれた食品と人工甘味料を摂るのをすっぱり止めたところで、持病の殆どが軽快してしまった。薬を飲んで打ち消さなければ行けない何かの正体が分かった。

「カラダに入れるものって大事だな」と思う。



2日目、浜名湖畔で迎えた朝はさわやかだった。昨日のような雨もない。しっかりケアをしたせいか、カラダも充分動きそうだ。浜松、掛川を経由してのおよそ89キロ、今日こそは定刻通りにゴールしてのんびりしよう。朝6時、夜明け前を浜名湖へと走りだす。

最初から食べることばかり考えていた。今朝は朝食を食べずに来た。というのも、昨夜コンビニで買ったおにぎりが、ガチガチバサバサになっていて喉を通らなかったのだ。温めれば少しは違ったのだろうけれど、部屋には電子レンジがなかったので、泣く泣く諦めた。

「どこかで静岡のうまいものでも食べよう」

そう考えて浜松市を目指した。



浜松駅では良い店を見つけられず、コーヒーで身体を温めるだけになった。まだまだ序盤、少し距離を稼いでから食事休憩をしよう。一休みを終えて、再び東海道を東へ。左右をキョロキョロと店を探しながらのラン。徐々にお腹が減ってくる。だんだん、選り好みしている場合ではなくなってきた。けれど、コンビニすら見当たらない。もう力が入らない。名古屋で食べた特上うな丼を思い浮かべて、辛うじて正気を保つ。

「やってしまった...」

今回も補給に失敗。朝の栄養が足りなかったせいで、この日は一日力なく走ることになった。



ようやくたどり着いたうどん屋ではぐったり。消化する分の時間も必要だった。長いこと休憩した後、走り出す。茶畑が広がる掛川、坂道が多い。おにぎりやあんまん、大判焼きなどでこまめに補給を繰り返した。しかし、思った以上の山道、金谷峠は道も狭く、歩道もない箇所が多い。頂上から橋が見える。



もう一度、ゆっくり食事をしたい。でも、夕闇も迫っている。ジレンマと闘いながら街を目指した。空腹に気持ちも弱くなる。暗闇の大井川橋はただただ怖かった。眼下に川は見えず、奈落そのもの。手すりにしがみ付きながら、ようやく渡り切った。



結局、ゴールの焼津駅に辿り着いたのは夜8時半過ぎ。疲れた。年末の駅前はとても静かだった。チェックインしたホテルで食事ができそうなところを確認する。が、2日間180キロを走った体で行けそうな所に、営業している店はなかった。

「死ぬ...」

何たることか、その夜は、部屋でひとりカップ焼きそばだけ。

「ひもじい...」

カラダに入れるものって大事だ。

暖房のない踊り場に設置されたコインランドリーで洗濯を終えた僕は、明日の朝食シーンに早送りで進むべく、急ぎベッドにもぐり込んだ。