パーセント理論という考え方がある。

というのは嘘で、僕が勝手にそう呼んでいるだけの考え方がある。当たり前のことだけれど、10キロのロードレースでは5キロ地点が、100キロのウルトラでは50キロ地点が、半分である。そして、何となくだけれど、どちらの場合でも辛さは同じだと思う。

「あと半分、残り半分で終わる」

心の中で必ずそうつぶやく。



3日目の今日は半分越え。焼津から三島へと静岡県をひたすら行く87キロ。大晦日だというのに、今年もウェアに身を包んで、見知らぬ街にいる。海が近いせいか朝7時の焼津駅前は風が冷たい。体の様子を見ながら、ゆっくりと走り始める。

「どうにか、行けそうだ...」



序盤戦は登り、程なくして宇津ノ谷峠に辿り着いた。歩行者が通行できる明治のトンネルは、足を踏み入れると時を忘れさせる。明治時代を模して造られたランプのオレンジ色は、おとぎ話の世界へと通行人を連れて行ってしまいそうだ。まるで世界と世界との間に出来た割れ目のようで、このまま進むと、間違ってどこか別の世界へと抜け出てしまうのではと感じる。

抜け出た先には緑の木々が生い茂り、古い家屋が立ち並んでいた。どうやら、与兵衛の時代に来てしまったようだ。

と思ったら、交通標識と電柱。

「ふう」

無事にトンネルを抜け出ていたようだ。緩やかに下り、平坦な道へ。静岡市内へと急ぐ。

静岡駅では、昨年箱根1区で道案内をしてくれたこえびさん、そして、twitterを見てわざわざ名古屋から応援ランに来てくれたBanbaさんと落ち合う。初めましてのご挨拶にあずきサンド。ありがたい。駿府城跡を経由し清水駅を目指す。およそ10キロのトリオラン。疲労ピークの3日目に仲間と走れると、気がまぎれる。本当に助かった。



清水から、興津へ。由比へと抜ける太平洋岸自転車道では、自転車で日本一周をしている青年と出会う。今日、埼玉に帰り着く予定だったが、間に合いそうもないそうだ。

「まあ、ゴールまで走り続けます!」
「僕はのろのろ行きます。お互いゴールまで無事に行きましょう」

随分と勇気をもらった。そして、ふといつの間にか半分を超えていることに気が付く。

「あと半分」

眼前に富士山が大きくなった。今日はまだ走り続けて、日本一の彼に背を向けなければならない。身体はそろそろ限界が近い。

「どうにか今日を乗り切れば...」



ズタボロの自分に言い聞かせて、進む。まだまだ会いたい人がいる。明日、箱根で待ち合わせをしている見知らぬランナーさん、そして、最終日に栃木から駆け付けてくれる地元のラン友。ゴールにおイネさんがいるのかも、この目で確かめなければ行けない。

富士市に着くころには日も落ち、完全にへこたれていた。まだ今日の行程の3分の1が残されている。明らかな遅れだった。そんな状況を察してか、夕闇に慶太さんとまーちゃんが再び現れた。度々立ち止まる僕に文句も言わず、ふたりは最後まで並走してくれた。

夜10時43分、3人で三島駅に到着した。ふたりがいてくれて良かった。

「疲れたなあ...」

ホテルの部屋で放心しながら、そう呟いていた。そう呟いた自分に「もう大丈夫だ」と感じた。ゴールできないかもしれないという不安は消えていた。やはりパーセントの不思議だった。

気が付くと日付が変わっていた。明けましておめでとう。折り返しの3日目が終わった。