大晦日、勝手に大坂の陣2日目。今日は彦根を出発、琵琶湖東岸の道を下って行く。昼過ぎには大津、そして、峠を越えて、京都へ。ゴール二条城までの距離は70キロ。初日に蓄積した疲労、ふたりっきりの孤独、比較的淡々としたコースを考慮して、短めに設定してある。早く着けば、大晦日の京都を楽しみたい。そんな目論見もある。

 朝、アラームに起こされる。明らかに眠り足りない。7割くらいは回復しただろうか。昨夜、洗濯したばかりのウェアに再び袖を通す。そそくさと食堂へ。皿を手に取り、ありったけの料理を皿に盛る。エネルギー切れを防ぐため、普段は食べない朝食をここぞとばかりに掻き込んだ。後から来たばんばさんもしっかりと食べている。一安心。ばんばさんは回復半ばというところだろうか。自主ウルトラ2日目のせわしなさを痛感していることだろう。疲労と上手く付き合っていくしかない。とにかく、旅は続く。



序盤戦、のどかな田園風景の中を行く。気温は1℃、冬のウルトラは寒い。


 昨日とは打って変わって、ふたりっきりの静かなスタート。城下町を抜けてしばらくすると、田園風景に囲まれる。想像していた通りの地味目の展開。琵琶湖のそばを走っていると言っても、湖岸からは数キロ離れているのでその姿を拝むことはできない。そして、目標となるランドマークもない。序盤から淡々と距離を消化していく。昨日は沢山の城に立ち寄ることができたが、今日はチェックポイントも地味目。20キロ地点の安土城址も模型展示。「ちょっと地味過ぎない?」と思ったが、コースを決めたのは自分なので、しれっとランを再開する。これはもうお昼くらいしか楽しみはないな。それまでは、ウルトラを骨の髄まで堪能しよう。半分諦めながら「走る」を繰り返した。



安土城址、信長の居城は雅な世界だった。といっても、実は模型内部。


 ランニングをしている時って何を考えているの?そう質問されることが多い。でも、案外、答えに困る。レース中は、タイムや残りの距離、ペース配分を考えているのだけれど、日頃のジョギングや、勝手にウルトラマラソンの時となると答えが出てこない。だって、特別なことなんて考えていないから。運転している時に何を考えているかと、あんまり変わらないんじゃないだろうか。必要な生活雑貨を思い出してみたり、歌の歌詞の意味を考えてみたり、やっつけなくちゃいけない仕事を整理してみたり、そんな具合だ。週末の予定を立てることも、過去を振り返ることだってある。





 思い出していた。

 子供の頃から「将来は何になりたいの?」という質問が嫌いだった。高2の春、学年主任に聞かれた時も、「ロボット...」と答えた。大真面目に答えたのだけれど、冷ややかな目線が返ってきた。何になりたいかなんて分からなくて、戸惑うことなく仕事ができればいいと思っていたから、そう答えただけなのに。どうして、同級生たちはあっさりと答えられるのだろう。何が幸せなのか、何を望んでいるのか、そんな事がずっと分からなかった。どうしたいのか、どうなりたいのか、何の希望も持ち合わせていなかった。結局のところ、社会に出てからも、答えは見つからなかった。いろいろ試しては「これが幸せ」と刷り込もうとしたけれど、全部うそだった。



昼休憩の食堂に現れたIさん。中継映像からこの店を割り出す能力にビビる!やはり和製ダニエルクレイグはいろいろと007。


 走り始めて随分経ったのに、思っていた以上に身体が重い。ふたりとも笑顔で走っているのだけれど、下半身は錆びたロボットみたいだった。日頃の練習不足を痛感する。ばんばさんも、やはり体調が優れないのか足取りは重い。無駄な動きが多いのか、疲れが溜まるのも早い。あれだけ朝食を食べたというのに、あっという間に腹がすく。結局、予定より早めに昼食を摂ることにした。転勤で会えなくなっていた走友が駆け付けてくれた。懐かしい顔に「しっかり走れよ」と背中を押された気がして、琵琶湖までの15キロをどうにか走ることができた。近江大橋を渡り、大津市へ。



ところどころに、勇気づけてくれる人がいた。幸運だったなあと思う。taeさnありがとう。


 大津から京都へは山を越える。夕闇が迫り、意気消沈しそうなふたりだった。でも、そこにまた応援が。へこたれて、救われて。こんな、出会いがまた力になる。ランニングの酸いも甘いもすべてが凝縮された一日だ。スクラップ間近のやる気がまた帰ってきた。暗く冷たい山道を懸命に進んだ。



寒い寒いトンネルを抜ける、遠くに、小さく、でも、明るく京都タワーが輝いていた。


 思い出していた。

 スクラップ間近のロボットは、長い時間をかけて全てを諦めた。姿を消してしまおう。通信機のスイッチを切って、ひっそりと屑鉄の山の中に埋もれて眠った。喜びがない代わりに、戸惑いもない。おやすみ。すこし未練は感じていたけれど、そのまま、機能を停止するはずだった。しかし、不意に、大きな磁力がボロボロのロボットを引っ張り上げた。

 それはマラソンの魔法だった。何にもならなくていい。ただ走ればいい。



祇園で異国の人ニッキーと英会話&ラン♪いつの日か、一緒にウルトラしようぜ!なんちゃって。



 そう、ただ走ればいいのだけれど、なかなか足は進まない。峠を越え京都へ入ったものの、疲労で固く縮こまった筋肉に、冬の冷気が追い打ちをかける。これは、買ってでもする苦労ではないな。山科の駅前で、ばんばさんが腰を下ろす。かなりのダメージを追っているようだ。脚を押さえ苦笑いする姿が、ちょっと痛々しい。そして、2日間でよーく分かったのだけれど、この男、チョー諦めが悪い!もう僕だったら、やめますけどね。脚を引きずってでも、ほふく前進してでも、ゴールに辿り着いてやろうという意志が伝わってきて、そりゃあもう、一緒にジリジリと進みましたよ。何だか楽しかったなあ。。



二条城、もう、寒い。ただそれだけ。

 祇園では旅行者のニッキーと話をして、NHKでは大きなどーもくんの前で紅白を見て、ようやくたどり着いた二条城は白く寒々しかった。2日目、どうにか終了。しんしんと冷え込む京都の夜に震えながら、夕食をとれる店を探した。とにかく早く温かいものを体に入れたくて、ホテル近くの大戸屋で定食とそば。明日はどうだろう。ホテルに帰って、そそくさと寝る準備。風呂に湯を張りたかったのに、水しか出ない。

 「こりゃ、明日もハプニングかも、サヨナラ2016」

 今年も記憶から消せない大晦日になったなと苦笑交じりに眠りに就いた。



 (つづく)