春からラジオの仕事を減らし、前々から計画していた誰でも自由に参加できるジョギングサークルを始めた。放送を通して情報を伝えることも大事だったが、実際に共に走る時間を共有することはもっと大切だと気付いたのだ。

 しかし、そんな折、世の中が変わってしまった。周囲で実際に何かが起きているとは感じられないのに、聞き慣れない言葉がニュースから流れ、触れ合いや語らい、時間を共にすることが憚られる世界に変容してしまった。とにかく、息苦しかった。それでも、初めてジョギングにチャレンジする方が生き生きと走ることを楽しんでいる姿を見て、生きる意味を再認識できた。世相の変化によっては年末の挑戦は難しいかもしれない。そう思った僕は、初めて夏に走ってみることにした。お盆休みの1日を使い、今度は北に線を伸ばす。東京から青森へと続く国道4号線の未走部を消化していこうと考えた。冬では雪で走れない区間もありそうだ。炎天下のウルトラは新たな発見があるに違いない。

 8月13日の朝、宇都宮駅からひとり新幹線に乗る。スタート地点の新白河までは二駅、何かを考える間もなく到着した。午前8時の駅前はとても静かで、人の往来もない。予報通りのすっきりとした晴れ、湿度は高くすでに汗をかき始めている。ただただ補給と発汗を繰り返すだけの1日になりそうだ。駅前のコンビニで早速補給品を入手して、急ぐように走り出した。

 今回は短日の企画だが80キロほどの短めにした。この暑さの中で100キロにチャレンジするには鍛錬が足りない。コースは概ね下り、新白河を出発し那須高原までは登りだが、黒磯から宇都宮にかけては下り、これならどうにかこなせるだろう。

 空は青く、雲は少ない。緑が濃く、蒸した夏の匂いが広がっている。国道4号に出て1時間もしないうちに県境を跨ぐ。
「車でも通ったことがないかもな…」
 東北に行くときはいつも鉄道か高速道路を利用していたので、地元栃木に入っただけなのにとても新鮮な気持ちだ。暑さに負けそうなトウモロコシ畑を横目に国道を走る。気温計は30度を示している。勝手知ったる地元と思っていたが、体温が上がる程に、ここがどこかということを意識する余裕がなくなっていく。

 ふと、勝手に箱根駅伝のためにコースを試走した7年前のことを思い出す。品川のコンビニで買った大きなロックアイス、2リットルのペットボトもすぐに空っぽ、ただ移動する体に水を出し入れするだけの苦行。途中、何度も気を失いそうに走り続けた。ゴール後しばらくベンチにもたれ掛かっていた。あの時は大船駅から帰ったのだったか。

 同じ轍を踏んではいけない。首元に巻いたタオルに水をかける。時々、脚にも水をかけてやる。日影を選んで走る。無くなったらすぐに水を買う。コンビニに立ち寄るのは時間のロスだったが、大きな休憩を余儀なくされるよりはいい。

 黒磯で昼食を取る。休日のファミリーレストランは家族連れで賑わっていた。ひとり少し恐縮しながら、腹持ちの良さそうな焼肉丼を掻っ込む。水分も十二分に溜め込む。速やかに作業という名の食事を終えて、店を出る。

 お昼を過ぎて、少し雲が増えてきたが、まだまだ日差しは強い。茹だるような暑さと残りの距離に少し失望する。コンビニにもそろそろ飽きてきたが、立ち寄らないわけには行かない。勝手知ったる地元だけに、目新しいものがないのが辛くなってきた。

 「ぷらさん!」

 懐かしい声が聞こえた。ガッキーさんだった。もう何年ぶりだろう。仕事の合間で会いにきてくれたのだった。

走行ルート